TENET (2020)を観て
- Nebula
- Apr 13
- 9 min read
Updated: 5 days ago
“What's happened, happened.“
はじめに
少し前に観た映画、TENET (2020) についての記事です。
ここまでの衝撃で映画に殴られたのは、初めてSF映画を観た時以来だったように感じます。
この記事は2025年3月21日にNoteに投稿した内容を一部改変したものになります。
あらすじ
今までの記事と違って長めのあらすじです。
先に予告編を置いておきます。
とは言ったものの真面目に書いてると感想よりあらすじの方が長くなりそうな気がしたので、省略多めで書きます。
本作の流れは一言で表現すると、
「凄腕エージェント(主人公*)が第三次世界大戦を防ぐため、その鍵となる科学技術を巡って奔走する話」
といった所になります。
余談ですが、記事の参考にしようとWikipediaであらすじを見てみたら5000文字くらいありました。
そんなに書けません。
ストーリーの細かい部分は他のサイトを覗いてみて下さい。
(*: 英語版で観ていたので、そちらに合わせて本記事では主人公と呼ぶ事にします。日本語版が「名もなき男」なのはつい先程知りました。かっこいい。)

時間も行ったり来たりしまくっていますが、地理的にも凄く綺麗な場所に多く行っています。
デンマークやエストニア、インド、イタリア、ノルウェー、イギリス、アメリカなど本当に様々な場所での撮影が行われたらしいです。
典型的なタイムトラベルモノとは違って、本作では人間が時間を「逆行」します。
エントロピーの減少を軸にこの技術は実現しています。(物理屋ではないのであまり深くは触れませんが...)
時間移動のプロセスとしては、Harry Potter and the Prisoner of Azkaban (2004)の逆転時計が近いかもしれません。(こちらは技術と言うより魔法ですが)
本作で主人公が立ち向かう敵は未来。
未来の世界では、人々が世界を逆行させる手段(「アルゴリズム」と呼ばれる機械)を開発しており、その使用を危険視した未来の研究者がアルゴリズムを分解、パーツごとに過去に隠していました。
作中ならびにOppenheimer (2023)で取り上げられていた内容ですが、J・ロバート・オッペンハイマーはテラー提起の「核爆発による大気・海洋発火説」の可能性を理論上「極めて0に近い」とし、最終的にトリニティ実験に臨みました。
本作で話に出ていた未来の研究者は、オッペンハイマーと近い立場に置かれていました。
しかしながら最終的に、この研究者は彼とは反対の決断をするに至りました。
未来の人類は「アルゴリズム」を完成させたいため、現在を生きる人間に交流を図り、計画達成のために暗躍させています。
本作では逆行/順行の切り替えに回転ドアを使っています。これを通して人や武器、そして車まで逆行させる事ができます。

感想
Inception (2010)やOppenheimer (2023)も本当に良い映画ですが、個人的にはTENETの方が刺さりました。
Inceptionと同じく(...Inceptionよりも?)本作は挑戦的な難易度のコンセプトを持ってきており、SF好きな人間として知らないうちに抱えていた需要が完璧に満たされた気がしました。
全体的な感想はまた最後に書きます。
本筋の感想が相当長くなりそうなので、逆にストーリーとはあまり関連しない内容から書いていこうと思います。
まず、音楽がかなり印象的でした。
文字に載せられるようなものでもありませんが、とにかくサウンドが全てのシーンを際立たせていたような気がします。
この二つは特に耳に残りました。
空港に飛行機を突っ込ませる計画を立てるシーン、会話中に場所がちょくちょく映るのが観ていて楽しかったです。
完全にエクスポジションのためのシーンではあるのですが、全く飽きませんでした。

消防車のシーンも好きでした。
スタルスク12に行く前の最後の新規アクションシーンです。
こっちも挟撃作戦なのがまた面白い。(物理的な挟撃)

とにかく逆行の描写もこだわりが凄いです。
分かりやすい例の一つはこのシーン。

この時間には3人の主人公が同時に存在しています。
映画で取り上げられる順に示すと、
絵画倉庫内で、ガスで気絶したふりをする主人公(謎の男と戦闘した直後)
現在逆行中。キャットと共に順行に戻ろうとしている。(上画像で中心に映っている3人)
現在順行中(「逆」逆行中)。オスロ空港から撤退中。(上画像で中心に映っている救急車)
何回も観ていてふと3の主人公だけでなく2の主人公も画面に映っている事に気がつき、非常に驚きました。
当然この様なシーンはスタルスク12での戦闘シーンにも複数存在します。
本当に良く統制されていて凄い。
話が逸れますが、主人公たちは序盤、謎の男と戦う前にこんな話をしています。
Neil: What the hell happened here?
The Protagonist: Hasn't happened yet.
これが最終的には
What's happened, happened.
という信条になります。
作中の出来事を通し、登場人物たち(特に主人公)の世界の見方が変わるのが非常に感慨深いです。
フリーポートでの尋問シーンはかなり頭がこんがらがるシーンの一つですよね。
しかしここもやはり、挟撃作戦に関するパラドックスの存在(後述)を除くと結局筋は通っています。

個人的な感触ですが、一連の尋問シーンは(作中の示し方に乗っかって)セイター目線で観るのが一番分かりやすいと思います。
ただ本シーンは印象的な物事がかなり多く、(時間の流れが視覚的に表現されている・逆行で発声した言葉がスピーカーを通して順行になるなど)最初に観たときは尋問の内容まで正直追えませんでした。
ラストでニールの発した言葉をここのシーンに適用すると、なぜこの様な尋問が発生したのか少し見えてくるかもしれません。
セイターは(彼の目線からすると尋問前だったにも関わらず)既に尋問後の主人公と彼から情報(結局偽情報だった)を引き出すのにに成功した事実、そして撃たれているキャットを目にしました。
そして少しした後、ニールの部隊に襲撃されました。
これによりセイターは必然的に逆行。
上の事実が生まれるきっかけを作るため件の「逆」尋問をする事になります。
逆尋問の撮影をするにあたって、セイター役のケネス・ブラナーは逆行英語(?)の台本を作り演技したそうです。
本当は逆再生じゃないのに、違和感が一切ないのが凄い。
話は変わりますが、本作では(私が気付いた限り)二つのパラドックスが主に取り上げられています。
① 祖父のパラドックス
こちらはパラドックス名がそのまま作中で言及されていましたね。
「時間を遡って、血の繋がった祖父を祖母に出会う前に殺してしまったら私はどうなるのか」という物です。
未来人目線で、祖父=現代人、殺す=アルゴリズム起動として考えてみると、未来の子孫たちは親殺しを行おうとしている事が分かります。
どこまで行ってもこれはパラドックスであり、作中でも結論は分からないままとなりました。
結局の所主人公はアルゴリズム起動の阻止に成功しました。
孫を殺してしまったのだろうか。その真相も作中で明らかになることはありません。
② 挟撃作戦と情報について
作中で説明されている通り、挟撃作戦は
🟦青(逆行チーム):1. 作戦が終わるまで待ち、作戦がどの様に運んだかを知る。2. その後作戦開始前まで逆行。作戦に関する情報を赤に伝える。
🟥赤(順行チーム):1’. 青から情報を受け取り、作戦を決行。2’. 終了後、待機していた青チームに情報を伝える。
という物です。
お気付きでしょうか。この作戦でやり取りされる情報には「起源」がないのです。
理論上、このループの第一周では1または1’が始まりとして存在しているでしょう。
しかしながら私達が見ているのはこの様な無限ループが極限まで達して終わった、ある意味成果物としての時間軸/時の流れです**。
そのため作戦に関する情報はどこで生まれたのかが分からなくなっています。
ただラストでニールの発した言葉はここにも適用でき、「既に作戦の情報を知っている」という事実は、決してどちらか一方の情報共有の必要性を損なう物=言い訳にはなっていません。
**: TENETにおいて、時間軸は順逆行において発生した全ての物事が最初から織り込み済みの状態で描かれています。
その最たる例が「14日にキャットが見た、ボートから海に飛び込む女性」です。
より大きな目線で見てみると、(作中で示されている通り)TENETという組織の存在自体が挟撃作戦になっています。
TENETという組織に巻き込まれ、危機について知ったのち世界の危機を救った主人公が最終的に過去でTENETを創設する(+必要な人間に危機についての情報を教える)事になる...この情報はどこが始まりだったのでしょうか。
これが明らかになる事は今のところ(恐らくこれからも)ないでしょう。
作中、主人公はキャットに携帯電話を渡します。(オリジナルでは"Posterity"、日本語だと「記録」と呼ばれていました)
携帯電話を通し、時間を超えて言葉が聞けるシステム。別名留守電。
逆行が存在する世界では、この技術を通し未来が過去に囁くのです。
スタルスク12の戦闘で主人公が使用しており、当然セイターも活用していましたね。
ラストでキャットは怪しい車を見つけ、「記録」を残します。
その後これを受け取った主人公は、逆行してキャットが記録を残す前まで遡り、その危機の種を排除するのです。
理論上、このループにも第一周が存在するはずです。
その時間線では、私達が見ることのなかった流れ...例えば「キャットが記録を残し、殺される→記録を受け取った主人公がプリヤと殺し屋を殺しに行く」のような行程があったはずでしょう。
しかしながら、やはりTENETの世界線は織り込み型。
キャットが記録を残す前から実際の危機は主人公により排除されており、排除のきっかけを作るため、(直接的な動機は「怪しかったから」)必然的にキャットは記録を残す事になります。
そしてその記録を見た主人公は「キャットが殺されないきっかけ」を作るため逆行する事になります。
今までの逆行と同じく、キャットが生きているという事実は殺し屋の始末の必要性を損なう言い訳にはなりません。
視点を変えて見てみれば、このシーンは本作のメインストーリーのミニチュア版とも捉えられる事でしょう。
この作品はIMDB7.3の評価です。
低くはないんだろうけど、もっと高評価でも良い気がする........
難しいという話はよく耳にしますが、セリフがしっかり聞こえる環境で一回観れば(尋問シーン以外の)ほとんどの流れは普通に分かります。
だからもし本編未視聴でこの記事を読んでいている方がいたら是非観てほしい!!!
ストーリーも本当に面白いし、逆行が織り交ぜられたアクションシーンも良い意味で「変」。
作り込みが異常で、本当に見応えがあります。
超面白いコンセプトを主軸に置いた、最高のスパイアクション映画。本当に神映画です。
正直私はあまり映画等の感想を書くタイプの人間ではありません。(文章書くのが下手なので...)
しかしながら、TENETを観て以降この作品の素晴らしさをせめて未来の自分が忘れないように残しておきたいな、と感じるようになりました。
記事にしようと思うまでそれなりな時間はかかりましたが、なんとか形になって嬉しいです。
今まで何度も言及している文章にはなりますが、私はラストシーンでのニールのセリフがお気に入りです。この言葉をもって本記事を締めようと思います。
拙い文章ですが、最後までお読み頂きありがとうございました。
What's happened, happened.
Which is an expression of faith in the mechanics of the world.
It's not an excuse to do nothing.
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